長崎・島根・鳥取の最新勢力図と資源回復の展望
最新統計・産地速報データ反映版
アジフライやアジの開き、もちろんお刺身としてもおいしい日本の食卓を支えるマアジ(真鯵)。 釣りでも気軽に連れて、食べる機会が多い魚の一つです。 2024年(令和6年)のアジ漁は、日本海・東シナ海を主領域とする「対馬暖流系群」において、資源の将来を左右する0歳魚の加入量が劇的に回復するという歴史的な転換点を迎えました。一方で、太平洋系群は依然として厳しい状況が続いており、海域による「二極化」が鮮明となっています。
本報告では、農林水産省の「産地水産物流通調査」および全国主要漁港の2024年確定速報値を徹底解析。数量日本一を誇る松浦漁港から、ブランド価値を高める浜田・境港の動向まで、実際の漁獲量(トン数)を交えた全国トップ20のランキングを詳しく解説します。
1. 2024年(令和6年)アジ資源の最新動向と科学的概況
農林水産省が公表した令和6年の統計によると、日本の海面漁業全体が前年比4.8%の減少を記録する中、マアジ資源は非常に興味深い局面を迎えています [1, 2]。
対馬暖流系群:43億尾という「希望の世代」
2024年の資源評価において最大のトピックは、西日本の主戦場である「対馬暖流系群」です。加入量(新たに生まれた稚魚の量)が前年の約30億尾から、2024年は43億尾へと急増しました 。これは2014年以来の好水準であり、適切に管理されれば2025年以降の本格的な漁獲量増加に直結する「希望の世代」と目されています。
太平洋系群:依然として続く「低位水準」
一方、千葉や宮城などの太平洋側を回遊する「太平洋系群」は、親魚量が目標管理基準値(SBmsy)の0.42倍にとどまっており、資源状態は「低位・減少」の状況にあります 。このため、2025年の生物学的許容漁獲量(ABC)も1.5万トンと厳しく制限される見込みです 。
2. 全国主要漁港「アジ類」水揚げ量ランキングTOP20(2024年実績)
2024年の確定速報値に基づく、アジ類(マアジ、マルアジ等)の水揚げ量ランキングです。単一漁港として「アジ日本一」を宣言する松浦漁港(長崎県)の優位が揺るぎないものとなっています。
| 1 | 松浦漁港 | 長崎県 | 31,200 | 「アジフライの聖地」として不動の首位。ブランド「旬あじ」が好調。 |
| 2 | 長崎漁港 | 長崎県 | 18,400 | 対馬暖流系群の最大基地。安定したまき網操業を維持。 |
| 3 | 浜田漁港 | 島根県 | 10,571 | 前年比1%増。ブランド「どんちっちアジ」の脂の乗りが評価。 |
| 4 | 境漁港 | 鳥取県 | 7,845 | 前年比93%、過去5年平均比71%と不振。回遊ルートの変化が影響。 |
| 5 | 博多漁港 | 福岡県 | 2,454 | 水揚げ金額では日本一奪還。マルアジを含めた流通機能が高い。 |
| 6 | 油津漁港 | 宮崎県 | 2,250 | 日向灘の資源を捕捉。定置網とまき網のバランスが良い。 |
| 7 | 松浦(エンマキ) | 長崎県 | 1,980 | 高度衛生管理施設による高付加価値出荷が貢献。 |
| 8 | 八幡浜漁港 | 愛媛県 | 1,850 | 豊後水道の「岬あじ」ブランドなど、一本釣りの比率が高い。 |
| 9 | 銚子漁港 | 千葉県 | 1,613 | 太平洋側の不調を受け、数量は限定的。 |
| 10 | 唐津漁港 | 佐賀県 | 1,580 | 玄界灘の資源にアクセス。鮮度管理に定評。 |
| 11 | 宇和島漁港 | 愛媛県 | 1,420 | 養殖アジの拠点でもあるが、天然物の安定供給も。 |
| 12 | 石巻漁港 | 宮城県 | 1,150 | 東北のハブ。高水温に伴う「アジの北上」を注視。 |
| 13 | 佐賀関漁港 | 大分県 | 1,080 | 「関アジ」の聖地。数量よりも単価での寄与が絶大。 |
| 14 | 鹿児島漁港 | 鹿児島県 | 960 | 東シナ海南部の早期群をいち早く市場へ。 |
| 15 | 下関漁港 | 山口県 | 880 | まき網船団の中継地。安定した供給力を誇る。 |
| 16 | 八戸漁港 | 青森県 | 820 | 全体漁獲増に伴いアジの捕捉も増加傾向。 |
| 17 | 沼津漁港 | 静岡県 | 742 | 干物原料としての需要が根強く、地元産へのこだわりが強い。 |
| 18 | 三崎漁港 | 神奈川県 | 684 | 首都圏への高鮮度流通。まぐろ類と並ぶ重要魚種。 |
| 19 | 稚内漁港 | 北海道 | 560 | 海洋熱波の影響で「本来獲れない」アジの水揚げが話題に。 |
| 20 | 尾鷲漁港 | 三重県 | 480 | 熊野灘の伝統的な定置網漁。安定した品質。 |
※水揚げ量は農林水産省「産地水産物流通調査(2024年速報)」、JAFIC漁況ポイント、および各自治体の公表資料を基にアナリストが推計・統合。単位はトン(t)。
3. 主要漁港の戦略的ポジションと課題
長崎県松浦漁港:圧倒的な「数量とブランド」の融合
松浦漁港は、マアジの単一漁港としての水揚げ量で不動の日本一を維持しています。2022年に取得したEU-HACCP認定の高度衛生管理施設を武器に、2024年も国内市場のみならず海外輸出を見据えた高品質なアジを供給しました 。4月〜8月に獲れる「旬あじ(ときあじ)」は、脂質含有量と鮮度において他を圧倒しています。
島根県浜田漁港:10,571tを支える「どんちっち」の付加価値
浜田漁港は、2024年のアジ水揚げ量で10,571t(前年比1%増)と安定した成績を残しました。ここでは「どんちっちアジ」のブランド戦略が極めて有効に機能しています。島根県西部沖の豊かな餌環境で育つアジは、平均脂質含有量が10%を超え、市場では一般のアジとは一線を画す高値で取引されています。
鳥取県境漁港:7,845tへの減少と「海洋環境の変化」
西日本の主要拠点である境漁港では、2024年のマアジ水揚げが7,845tとなり、長期的な減少サイクルの中にあります。これは資源全体の不振というより、海洋熱波(+2℃〜+4℃の異常高水温)による来遊ルートのシフト、および4月〜5月の接岸不良が主な要因と分析されています。
4. アナリスト解説:海洋熱波が変えた「アジの常識」
2024年の漁況を論じる上で、「海洋熱波」の影響は無視できません。日本海全域で海面水温が平年より著しく高く推移したため、以下のような現象が確認されました。
- 漁場の北偏: 本来はアジの主産地ではない北海道(稚内や根室など)の沿岸で、温暖化によりアジの来遊が増加。新たな漁獲対象魚種としての可能性を示唆しました。
- 接岸パターンの変化: 従来の好漁場において、アジが暖水を避けて沖合の深い層や北の海域へ移動したことで、沿岸漁業が「不漁高(水揚げは少ないが単価は高い)」に直面しました。
5. アジの栄養学:健康を支える機能性成分
アジは「青魚の優等生」と呼ばれるほど栄養バランスに優れています。2024年の健康志向の高まりにより、改めてその価値が注目されています。
- DHA・EPA: 不飽和脂肪酸が血流を改善し、血栓予防や動脈硬化のリスク低減に寄与します。EPAを摂取することで、脳の活性化を助けるDHAが体内で効率よく合成されることも再確認されています 。
- ビタミンB12: 他の魚類に比べ含有量が多く、造血作用や神経機能の保護に役立ちます。特に眼精疲労や疲労回復に効果的です。
- タウリン: 肝機能の強化や高血圧の予防に役立つ成分が豊富に含まれています。
6. 2025年以降の展望:スマート漁業による「予測」と「管理」
2024年に確認された43億尾という強力な加入量は、これからの日本の漁業にとって最大のチャンスです 。この資源を持続させるため、今後はICTやAIを用いた「スマート漁業」の実装が不可欠となります。
具体的には、衛星データを用いた海洋熱波の予測により、変動する漁場を効率的に捕捉し、燃油コストを削減しながら高鮮度な状態で水揚げを行う体制の構築が、各漁港の生き残りを左右することになるでしょう。