スケトウダラ・マダラの最新実績と海洋熱波の影響を分析
2024年(令和6年)最新統計・主要117港速報データ反映版
日本の食糧安全保障を支える「スケトウダラ」と、冬の味覚の象徴である「マダラ」。タラ(鱈)は、日本の食卓に古くから親しまれてきた冬を代表する魚のひとつです。名前に「雪」を連想させる字が使われている通り、寒い季節に旬を迎え、淡白で上品な味わいが特徴です。身は白くやわらかでクセが少なく、どんな料理にもなじみやすいことから、幅広い調理法で楽しまれています。
代表的な料理といえば、やはり鍋料理。タラの身は加熱しても硬くなりにくく、だしを吸ってふっくらと仕上がるため、寄せ鍋や湯豆腐には欠かせない存在です。また、塩焼きやムニエル、フライにしても美味しく、和洋を問わず活躍します。さらに、タラの白子は「冬の珍味」として知られ、濃厚でクリーミーな味わいは多くの食通を魅了してきました。
栄養面でも優れており、高たんぱくで低脂肪、消化がよいことから、子どもから高齢者まで安心して食べられる魚です。寒い季節に体をいたわり、食卓にやさしい温もりを添えてくれる――それが日本人にとってのタラの魅力と言えるでしょう。2024年(令和6年)のたら類漁業は、三陸から道東海域を襲った極端な海水温上昇(海洋熱波)により、資源分布と漁場形成が大きく揺れ動いた一年となりました。農林水産省の最新統計では、スケトウダラの漁獲量は全国計で12万3,600トン(前年比100.5%)と安定を見せた一方、マダラは主要港で前年比78%と大幅な減少を記録しています。
本報告では、JAFICの調査データおよび自治体速報を基に、実際の水揚げ量(トン数)に基づいた全国トップ20のランキングを公開。北海道の圧倒的な集積力から三陸勢のレジレスンス(回復力)まで、アナリストが多角的に分析します。
1. 2024年(令和6年)たら類資源の概況:安定と激変の二極化
令和6年の統計において、たら類は魚種によって明暗が分かれました。スケトウダラは、日本周辺の主要系群(太平洋系群やオホーツク系群)において、科学的根拠に基づく漁獲可能量(TAC)管理が功を奏し、供給量は平年並みを維持しています 。
マダラを襲った「海洋熱波」の衝撃
一方で、マダラは前年比で2割以上の減産となりました。JAFICの報告によると、三陸から道東海域では黒潮続流の北偏により、海面水温が平年を3~4℃上回る異常事態が継続しました 。これにより、冷水性のタラが沿岸の操業域を離れ、深場や北方へ移動したことが水揚げ減の主因と分析されています 。
2. 2024年 全国主要漁港スケトウダラ水揚げ量ランキング TOP20
2024年の累計実績に基づくスケトウダラのランキングです。北海道の漁港が上位を独占し、日本の練り製品文化(すり身・たらこ)の基盤が道東海域にあることを示しています。
| 順位 | 漁港名 | 所在地 | 水揚げ量(t) | 主な系群・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 根室漁港 | 北海道 | 26,929 | 根室海峡系群の拠点。高品質な卵(たらこ)原料が主体。 |
| 2 | 釧路漁港 | 北海道 | 24,073 | 太平洋系群の最大基地。沖合底曳網による安定供給。 |
| 3 | 紋別漁港 | 北海道 | 20,490 | オホーツク海南部系群。資源量が安定しており前年比も良好。 |
| 4 | 網走漁港 | 北海道 | 18,252 | 紋別と並ぶオホーツク拠点。陸上すり身加工の重要拠点。 |
| 5 | 稚内漁港 | 北海道 | 9,808 | 日本海北部系群。資源回復に向けた管理が継続中。 |
| 6 | 羅臼漁港 | 北海道 | 9,052 | 「真子」の価値が極めて高い。ブランドたらこ原料の産地。 |
| 7 | 石巻漁港 | 宮城県 | 2,246 | 太平洋系群の南限拠点。東北の練り製品工場へ供給。 |
| 8 | 八戸漁港 | 青森県 | 1,598 | 北日本太平洋の物流ハブ。底曳網の集積地。 |
| 9 | 広尾漁港 | 北海道 | 1,507 | 十勝沿岸。回遊ルートの変動を敏感に受ける港。 |
| 10 | 小樽漁港 | 北海道 | 1,158 | 日本海側の重要拠点。地域消費向け流通。 |
| 11 | 雄武漁港 | 北海道 | 959 | オホーツク沿岸の小規模拠点。 |
| 12 | 枝幸漁港 | 北海道 | 904 | 宗谷地方。流氷や水温の影響を強く受ける。 |
| 13 | 厚岸漁港 | 北海道 | 638 | 道東の定置網・刺網資源が集約。 |
| 14 | 宮古漁港 | 岩手県 | 590 | 三陸。マダラとの混獲が主体。 |
| 15 | 釜石漁港 | 岩手県 | 456 | 三陸南部。季節的な来遊を捕捉。 |
| 16 | 大船渡漁港 | 岩手県 | 447 | 産地加工用の原料供給拠点。 |
| 17 | 気仙沼漁港 | 宮城県 | 231 | 近海底曳網による高品質な水揚げ。 |
| 18 | 女川漁港 | 宮城県 | 206 | 三陸沿岸の加工インフラ向け供給。 |
| 19 | 岩内漁港 | 北海道 | 184 | かつての主産地。資源の再生を待つ状況。 |
| 20 | 塩釜漁港 | 宮城県 | 150 | 消費地への近接性を活かした流通。 |
※水揚げ量はJAFIC「全国主要117港累計(2024年)」および各自治体統計を基に推計。単位はトン(t)。
3. 2024年 全国主要漁港マダラ水揚げ量ランキング TOP20
鮮魚としての価値が高いマダラの実績です。北海道勢に加え、岩手・宮城の三陸勢が健闘しているのが特徴です。
| 順位 | 漁港名 | 所在地 | 水揚げ量(t) | 2024年の動向 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 釧路漁港 | 北海道 | 5,595 | 底曳網による大規模供給。全国首位を維持。 |
| 2 | 八戸漁港 | 青森県 | 3,363 | 三陸・北海道資源の集積地。前年比での減少は限定的。 |
| 3 | 根室漁港 | 北海道 | 2,752 | 北方海域資源へのアクセス優位性を発揮。 |
| 4 | 宮古漁港 | 岩手県 | 2,683 | 本州一の産地。刺網による高品質な個体が中心。 |
| 5 | 羅臼漁港 | 北海道 | 2,137 | 「真だち(白子)」のブランド価値が全国トップ。 |
| 6 | 大船渡漁港 | 岩手県 | 2,118 | 三陸南部の拠点。安定した水揚げを継続。 |
| 7 | 石巻漁港 | 宮城県 | 1,957 | 加工・物流インフラが充実しており集荷力が高い。 |
| 8 | 釜石漁港 | 岩手県 | 1,691 | 沿岸・沖合両資源をバランスよくカバー。 |
| 9 | 網走漁港 | 北海道 | 1,291 | オホーツク海域の冬の主役。 |
| 10 | 厚岸漁港 | 北海道 | 1,135 | 道東の刺網漁業において重要な収益源。 |
| 11 | 広尾漁港 | 北海道 | 833 | 十勝沿岸。鮮魚出荷の評価が高い。 |
| 12 | 紋別漁港 | 北海道 | 781 | 冬期の底曳網資源が着実に集約。 |
| 13 | 稚内漁港 | 北海道 | 439 | 日本海・オホーツクの接点。資源変動の影響大。 |
| 14 | 久慈漁港 | 岩手県 | 386 | 岩手北部の小規模ながら高品質な供給。 |
| 15 | 女川漁港 | 宮城県 | 378 | 地元加工業者向けの安定した供給。 |
| 16 | 落石漁港 | 北海道 | 346 | 根室近隣の特選品供給港。 |
| 17 | 気仙沼漁港 | 宮城県 | 333 | 三陸南部の物流拠点としての機能を発揮。 |
| 18 | 塩釜漁港 | 宮城県 | 213 | 近海物の高鮮度流通に強み。 |
| 19 | 雄武漁港 | 北海道 | 211 | オホーツク沿岸の補完的役割。 |
| 20 | 様似漁港 | 北海道 | 205 | 日高沿岸の資源を補足。 |
※水揚げ量はJAFIC調査対象港の確定速報値に基づく。単位はトン(t)。
産地の恵みを直接届ける:土佐清水の逸品紹介
北の海のたら類とともに、日本の魚食文化を支えるのが南の海の黒潮資源です。高知県土佐清水市では、獲れたての鮮度を封じ込めた絶品のカツオが味わえます。
4. 加工市場の動向:円安と「国産すり身」の価値向上
2024年の大きな経済的トピックは、記録的な円安に伴う輸入原料の高騰です。これまで日本の練り製品市場は米国・ロシア産の輸入スケトウダラすり身に依存してきましたが、2024年は北海道の紋別や網走で生産される「陸上(おか)すり身」の価値が相対的に高まりました 。
国産すり身は、漁獲直後の鮮度管理により「足(弾力)」が非常に強く、高級かまぼこ原料としてプレミアム価格で取引されています。ランキング上位のオホーツク勢の安定した供給は、日本の伝統的な食文化を守る最後の防波堤となっています [1]。
5. たら類の栄養学:高タンパク・低脂質の理想的な健康食
たら類は、老若男女を問わずおすすめできる優れた栄養組成を持っています。
- ビタミンB12: 他の魚種に比べて含有量が多く、赤血球の生成を助けて貧血を予防し、神経機能を正常に保つのに役立ちます 。
- 低カロリー・高タンパク: 脂質が非常に少ないため、ダイエット中や筋力トレーニング中の方、消化能力が低下した高齢者の方にとって理想的なタンパク源です。
- グルタチオン: 抗酸化作用のある成分が含まれており、肝機能の保護やアンチエイジングへの期待も寄せられています。
6. 2025年以降への展望:スマート漁業による漁場探索
海洋熱波が常態化する中で、これからのタラ漁には「予測」の力が不可欠です。三陸沖や道東海域では、人工衛星データとAIを用いた最新の「漁場予測モデル」の導入が進められています 。
魚が潜む最適な水温層をデジタル技術で特定することで、無駄な航行を減らし、燃油コストを削減しながら効率的に水揚げを行う。こうしたスマート水産業への適応が、次年度以降のランキングを塗り替える鍵となるでしょう 。